こんにちは。大人のおしゃれ塾、田中です。
先日、無印良品の肌着売り場で耳にしたのですが・・・
60代くらいのお母さんと40代とおぼしき娘さんの会話です。
母(陳列してある肌着を横目で見ながら)「わたしゃ、夏は木綿じゃないといけんのよ。化繊が入っとったら、かゆーなるけー。(痒くなるの意)」
娘(個装された商品を手に)「お母ちゃん、これオーガニックじゃけ―ええよ。」
母(娘の言葉が耳に入らなかったのかスルー)
母娘(売り場を去る)
二人が去った後、私も商品を手に取ってみました。
パッケージには「綿はオーガニックコットンです。」と書いてありました。
確かに。
わざわざ「オーガニックコットン」と書くのは、多くの人が「オーガニックコットン」に良いイメージを持っているからでしょう。なので、それを「売り」にしようというわけです。
豚肉でも「三元豚(さんげんとん)」とラベルに書いてあると、ブランド豚のような印象を受けます。
日本では豚はすべて三元豚という品種と知った時は驚きました。
どうやら、そんなからくりが「オーガニックコットン」にもあるようです。
オーガニックコットンだから肌に優しいわけではない
結論からいうと「オーガニックコットン」だから肌に優しいわけではありません。
農薬無使用のコットンも、農薬使いまくりのコットンも、糸または生地、製品になった後、漂白、染色、洗浄の工程があるため、農薬は残留しません。
そもそも綿花採取までに農薬は散布されるのであって綿花(コットンフラワー)への残留は一般のコットンでも多くはないそうです。
もし、その綿製品で肌に炎症やかゆみが生じるとしたら、それは染料や後加工の薬剤によるもので、綿花(コットンフラワー)採取時の農薬の有無には関係がありません。
「オーガニックコットン」の何が優しいかというと、それは綿花の生産者と地球環境に優しいのです。
生産者に優しい
通常のコットン栽培では大量の農薬が使われます。
世界の全耕作地のうち、綿花栽培に使われている耕作地は2.5%にすぎません。
そこへ世界で使われる農薬(殺虫剤)の約16%、落葉剤や除草剤を含めた農薬全体では約8%が散布されているのですから恐ろしい状況です。(ソースはこちら)
散布する農民は半ズボンに半袖シャツ、スリッパといったスタイルですから無防備なことこの上ないです。
それに対して、オーガニックコットンは、化学農薬を使うことがない有機栽培なので、健康被害も少なく、必然的に生産者に優しいことになります。
地球に優しい
エシカル・チョイス(Ethical Choice)の記事によると・・・
2014年にTextile Exchangeという国際的な「持続可能な繊維産業推進団体」が実施した調査では、オーガニックコットンと一般のコットンでは下記の違いが明らかになりました。
- オーガニックコットンは地球温暖化への影響が47%少ない
- オーガニックコットンは酸性雨を70%減らす
- オーガニックコットンは土壌劣化、浸食が26%少ない
- オーガニックコットン農業用水の使用を91%減らすことができる
- オーガニックコットンはエネルギー使用量が62%少ない
地球温暖化、酸性雨、土壌劣化・浸食、水やエネルギーの使用量、すべてにおいて地球環境に良いこと尽くしのオーガニックコットンですが、残念ながらオーガニックコットンの生産量は多くありません。
そもそもオーガニックコットンとは「3年以上農薬や化学肥料を使わないで栽培された農地で育てられた綿花のこと」です。
日本の「お米」でも完全に無農薬での栽培が難しいように、綿花も、無農薬での栽培は当然、手間もコストもかかります。
そのためJCFA(日本化学繊維協会)のデータによると、2017~18年の世界の綿花生産が約2600万tであるのに対して、オーガニックコットンの生産量は約11万t(0.4%)と極めて少ないのです。(ソースはこちら)
わずか0.4%です!!
オーガニックコットンと一般のコットンは見分けがつかない上に、残留農薬の問題もありません。
そうなると綿花のバイヤー(買い付け人)は、商品価格に直結する原綿をできるだけ安く買おうとします。頭ではオーガニックコットンが良いと分かっていても、価格が高いと断念せざるを得ません。背に腹は代えられないといったところでしょうか。
せっかく手間暇かけてオーガニックコットンを生産しても買い叩かれることが多く、生産者としても考えてしまいますよね。せっかく苦労して作っても報われないため、生産量は伸びないままです。
ファストファッションが浸透した現代では、消費者も安価な商品に慣れ切っていることも原因しているでしょう。
意識の上では「オーガニックコットンは良い」と分かっていても、いざ購入するとなると、安さを優先してしまいます。
オーガニックコットンの肌着(タンクトップ)が仮に3500円だとして、それをスンナリ買えるのはよほど環境への意識が高い人ではないでしょうか。
そんな時、無印良品のタンクトップのように、2枚組で790円、しかも「綿はオーガニックコットンです」と書いてあったらどうでしょう。
安いし、オーガニックだし、ということで購入へと結び付きやすくなるのではないでしょうか。
オーガニックコットンの認定機関
そもそも「オーガニック」であるかどうかは見た目では判断できないので、生産工程のチェック(追跡)が必要になります。
世界共通のオーガニック繊維基準としては、現在、GOTSとOCSの2つがあります。
GOTS(Global Organic Textile Standard)は、 日本だけでなく世界的にも知られた国際的な認証機関で、オーガニック繊維の生産から製造、販売、すべての工程において取り扱いの基準が定められています。生産履歴の追跡も保証されています。
ここではオーガニック認定原料の使用量は70〜100%と定められています。
OCS(Organic Content Standard)は、食品は除き、5〜100%のオーガニック原料を含んでいる製品に使われ、オーガニック原料100%のものが「OCS100」、5〜95%未満のものが「OCSブレンド」。こちらも生産履歴の追跡が保証されています。
その他にも、アメリカにはUSDAやTDA、ヨーロッパではOeko-Tex(エコテックス)、日本ではNOC(日本オーガニックコットン流通機構)などの認定機関があります。
これらの認定マークがついている「オーガニックコットン」は、フルーツジュースに例えるなら、果汁100%、もしくは生産工程が明らかにされた果汁が70%以上のものということになります。
果汁100%のオーガニックなジュースなら500円、果汁が0%のジュースなら100円、というように生産にかかるコストが価格に反映されます。
これらの機関に認定されたコットンは、確かに生産者にも地球環境にも優しいですが、消費者のお財布には優しくないという問題が起こってくるのですね。
世界最大のサステナブルコットンプログラム【BCIコットン】
ところでみなさんは【BCIコットン】をご存知でしょうか。
私は今年はじめてファストファッションのH&Mで買い物をしたのですが、その時、商品説明文を見て知りました。
H&Mはサスティナブルな取り組みをしている優良企業として、世界100社に選ばれています。
私が見た概要(説明文)がこちらです。
コットンは再生可能な天然繊維で、栽培に大量の水を必要とします。H&Mで最も使用率の高い素材であり、2020年以降、すべてのコットンをより持続可能な方法で調達しています。現在は、農薬や化学肥料、遺伝子組み換え有機物を使用せずに栽培されたオーガニックコットン、使用済の衣服や使い残しのテキスタイルを原料としたリサイクルコットン、現地の環境にかかる負荷を軽減し、農業コミュニティの福祉向上に役立つBCI(ベター・コットン・イニシアチブ)を通して調達されるコットンの3種類のコットンを使用しています。
Better Cotton Initiative(ベター・コットン・イニシアチブ) 略して【BCIコットン】
前述のGOTSとOCSほど基準(規制)は厳しくないのですが、その代わり、生産者がより多くの綿花をより良い形で栽培していくサポートをします。
理想が「絵に描いた餅」に終わらないよう出来るところから一歩一歩進めていこうというわけですね。
基準を緩くしてでも受け入れしやすい策をとり、綿花栽培をよりサスティナブルなものにしていこうという取り組みです。
BCIはスウェーデンに拠点を置く国際的なNGOで、特に欧州の大手アパレルメーカー(IKEA、H&M、Adidas、GAPなど)が先頭になって立ち上げたそうです。
年間2,600万トンにも上る膨大な綿花ですが、生産農家99%が小規模農家で、日々の生活費を賄うだけの収入は綿花からは得られていません。
こうした小規模農家では、その日その日の暮らしに精一杯で、安易に栽培方法を切り替えることができないのです。
BCIからベターコットンを購入した代金は、このような極貧の綿花農家に、よりサスティナブルな農法をトレーニングするために活用されます。BCIコットンに高いプレミアム性はなく(含有量に関する規定等もなく)、農家の利益増加にこそ焦点が置かれているのです。
世界中の綿花農家が、出来うる限り最善の方法で最大の収穫を得られるような栽培をすること、それこそがBCIの願いなのです。
おわりに
オーガニックコットンの含有量が数パーセントにすぎないのに「オーガニック」をうたう。。。
今までこの状況にとても嫌悪感をいだいていました。
けれど一朝一夕には理想的な状況は得られません。
「オーガニック」という言葉にほだされやすい私たちですが、その含有率が少しづつ上昇していけば良いと思うし、大量なコットンを消費する大企業は、これからも率先して生産者や環境に配慮した取り組みを続けてほしいと思います。
また、その取り組みがパフォーマンスに終わらないように、私たちは【BCIコットン】の売り上げが、本当に生産者の支援につながっているのか、注視していかなければならないと思います。
今日のブログは「オーガニックコットン」の認証機関が多岐にわたるので、話がややこしかったと思いますが、要は「オーガニックコットン」100%の商品は高額です。
安いのに「オーガニック」をうたっている商品は、含有量が少ないか、BCIコットンです。それでも生産者や地球環境にまったく配慮がなされていない商品より余程マシです。
持続可能であること、そして持続してより良い状況、環境を作りだすことが大切だと思います。