こんにちは。大人のおしゃれ塾、田中です。
ひょんなことからポール・ギャリコという作家のことを知り『ハリスおばさんパリへ行く』という本を買いました。
これが自分史上まれにみるグッとくる作品で、1回目も2回目も読んで涙が出ました。
主人公への共感からくる涙なのか、勇気への称賛への涙なのか。。。
もともとは児童向けの本ですが、これは大人が読んでこその味わいがあります。
日本ではまだ未公開ですが映画も出ました。
ポール・ギャリコについて
ポール・ギャリコ(Paul Gallico) は1897年生まれのアメリカの作家です。
お父さんはイタリア生まれのピアニストで、子どもの頃はお父さんと一緒にヨーロッパ各地を演奏旅行で回ったそうです。
お父さんのたっての願いでギャリコは1916年にコロンビア大学(医学部)に入りましたが、彼の夢は作家になることでした。
卒業後は医者にはならず、ニューヨークの新聞社でスポーツ記者をしました。
その間もずっと小説の勉強に励んでいたようで、1941年に発表した『スノーグース』を皮切りに、多くの優れた作品を生み出しました。『ポセイドン・アドベンチャー』など映画化された作品も多いです。
ギャリコは 1976年に79歳で亡くなりましたが、私が今回読んだ『ハリスおばさんパリへ行く』は、ギャリコが61歳の時(1958年)の作品です。
主人公のハリスおばさんも60歳間近な家政婦さん。
優れた作家であれば年齢にかかわらず登場人物の心情は描けるのかもしれませんが、ハリスおばさんの場合は「ギャリコと同年代だからこそここまで共感できる表現ができたのでは」と思いたくなります。
ギャリコは『ハリスおばさんパリへ行く』に続いてハリスおばさんシリーズ「ニューヨークに行く」「国会に行く」「モスクワに行く」も書いていまが、いずれも読者のレビューを読むと、国の内外を問わず、私と同じように心を打たれた人が多いです。
レビューの文章も「どれだけ時間をかけて言葉を選りすぐったのか」と思う程、表現が美しく、そちらの方にも感動を覚えます。
『ハリスおばさんパリに行く』の本とあらすじ
私が購入した『ハリスおばさんパリへ行く』は復刻版で、底本(ていほん)は1973年発行の講談社「少年少女講談社文庫」です。2005年に復刊ドットコム社から1800円で出版されました。
今はAmazonで文庫本であれば中古で2400円から、ハードカバーであれば2万円越えの高値が付いています。
私は運よくメルカリで第4刷のハードカバーを1500円で手に入れました。
市や区の図書館であれば、どこもこの本は「児童書」の分類(外国の児童文学)で置いてあると思います。
あらすじは、ネタバレになるので映画の予告編で示されている範囲にとどめますが・・・
20年前にご主人をなくしたハリスおばさんが、家政婦先の男爵夫人の館(やかた)でクリスチャン・ディオールのドレスに出会います。
ドレスに激しく魅了されたハリスおばさんは、その芸術作品ともいえるドレスを自分も手に入れたいという欲望に抗(あらが)うことができませんでした。一時は諦めようとはしたものの、絶望の中でうごめく熱情は消し去ることができませんでした。
それから2年と半年余り、ハリスおばさんは働きながら倹約に倹約を重ね、とうとうパリ行き航空券やディオールのドレス代(450ポンド)を含め500ポンドの目標額を達成しました。
この物語は1947年のイギリスとパリが舞台ですが、当時の450ポンドが今に換算するとどのくらいの金額なのか、調べても分かりにくかったのですが、数百万円は下らないと思います。
晴れてディオールのお店に到着してからも、ハリスおばさんのような貧相な家政婦には、そこは不似合いなことこの上ない場所です。
当然、ディオールのお店を取り仕切る「女支配人」から冷たくあしらわれます。
その時のハリスおばさんのセリフがこちらです。
「なんだよう!あんたたちフランス人は、人情ってもんがないんだね!へん、おまえさんは口だけはたっしゃだが、心は氷のようなお人だよ!あんたは、なきたいくらいに、なにかがほしいって思いつめたこたないのかい。なにかがほしくって、ほしくって、夜もねむれず、それが手にはいらなかったらどうしようと、心配でふるえながら、夜どおし起きていたようなことはないのかい。(p.114)」
ディオールのドレスを求めたおばさんの心は、決して単なる物欲だけではありません。
ディオールの女支配人も、この夢をひたすら追いかけて来た婦人の勇気に心を打たれます。
「どんな道を歩んできて、どんな人生の航路をたどる人にせよ、いま、目の前にいるのは、一人の女性なのだ。そして、女のねがいをいだいていることに、なんのかわりがあろう。(p.116)」と。
物語は次々と周囲の人を巻き込みながら、予想外の結末へと向かっていきます。
けれどご安心を!
何が起ころうともギャリコの作品には、ゆるぎない人間への信頼と愛が根底にあります。その温かさや素直さにふれると、私たちは自然と笑顔になり「人生悪くないかも」と思えるのです。
映画になったハリスおばさん
それではお待たせしました(笑)
今年イギリスで制作された『Mrs.Harris Goes to Paris』の予告編をご覧ください。
字幕はありませんので悪しからず。
ハリスおばさんのパリ行きの帽子(お花が付いた)、可愛いと思われませんでしたか?
この帽子はパスポートの写真を撮るために購入したのですが、原作では緑の麦わら帽となっています。パスポート写真は帽子はダメなのに、ハリスおばさんはそのことを知らずに奮発して購入しました。
映画の日本公開については時期は分かりませんが、DVDはすでにAmazonで販売されています。(筆者注:2022年11月18日にいよいよ日本でも公開されたようですね)
- Amazon.co.jp での取り扱い開始日 : 2022/6/6
- ¥4,899
- メーカー : Generic
- 原産国 : 英国
ハリスおばさんの映画は、2009年版もあります。
こちらのハリスおばさんはもっと歳か多く見えますね。
- 発売日 : 2009/1/5
- 言語 : 英語 (Dolby Digital 2.0 Stereo)
- 販売元 : Pegasus
映画『クリスチャン・ディオールと私』とデザイナーの交代劇
ハリスおばさんの映画には、ショーの最後にムッシュー・ディオールが登場していましたが、ディオールはデザイナーとしてデビューしてから約10年で死去しています(1957年)。
その後サンローランをはじめ、マルク・ボアン、 ジャンフランコ・フェレ、ジョン・ガリアーノ、ラフ・シモンズ、エディ・スリマン、クリス・ヴァン・アッシュなどがディオールのデザイナーを務めてきました。
次の映画は2013年にラフ・シモンズがデイオールのデザイナーに就任した最初のコレクションを描いたものです。
プレタポルテ(既製服)しかもメンズの世界からオートクチュール(高級注文服)に抜擢されたわけですから、ラフ・シモンズとディオールのアトリエのスタッフたちの間にはいろいろ軋轢があったことでしょう。
オートクチュールの様子やデザイナーを描いた映画は、シャネルやデイオール、サンローランをはじめたくさんありますが、やはり画中のドレスやモデルの美しさには圧倒されます。
そのラフ・シモンズもディオールの在籍期間は2013年から2015年の約2年。
今はヴァレンティノ(VALENTINO)を手掛けてきたマリア・グラツィア・キウリがレディス部門、ルイ・ヴィトンを手掛けてきたキム・ジョーンズのメンズ部門のデザインを担当しています。
シャネルやジバンシー、ディオール、サンローランなど、1920年代から1960年代に立ち上がったハイブランドで、初代デザイナーが存命なところは数えるほどしかありません。
アルマーニくらいでしょうか?
ハナエモリ(森英恵)、イッセイミヤケ(三宅一生)は1970年代にパリコレデビューし、お二人ともご健在です。森英恵さんは96歳になられたとか。
コムデギャルソン(川久保玲)、ヨージヤマモト(山本耀司)、プラダ、ドリスヴァンノッテンなどの台頭は1980年代になります。
ジルサンダーは70年代には活躍していたようですが、マルタン・マルジェラにしても、デザイナーが存命中にもかかわらず交代劇が起こっているブランドもあります。亡くなったKENZO(高田賢三)もそうでした。
三宅一生は2012年より社内でデザインチームを組んでクリエーションにあたっています。
近年はデザイナーの交代が激しく、覚えた頃には替わってしまいます(涙)
プラダ(PRADA)も、ミウッチャ・プラダが頑張っていると思っていたのですが、2020年からラフ・シモンズが共同クリエイティブディレクターに就任しているようで驚きました。
私は結構「ミウッチャ・プラダのプラダ」が好きだったのですが、彼女も1949年生まれですからもう74歳。クリエーションを維持するためには新しい血も必要なのかもしれません。
おわりに
円安や日本の経済状況もあり、ハイブランドの服やバッグはますます高価になっています。
こういったラグジュアリーブランドに対する受け止め方も人それぞれですが、やはり美しいものへの憧れはいつの時代も人々の心を揺さぶるものではないでしょうか。
自分が買うか買わないか(買えるか買えないか)ではなく、美しさという視点でファッションを見る時、その造形に込められた魂というか非凡さには純粋に目を奪われます。
ハリスおばさんもきっとそうであったように。
追記
2002年8月、三宅一生さんに次いで森英恵さんご逝去のニュースが入りました。
日本が世界のモード界に進出する先鞭をつけた方々です。
謹んでご冥福をお祈り申し上げます。