こんにちは。大人のおしゃれ塾、田中です。
広島市現代美術館、池田満寿夫とデモクラートの作家「とびたつとき」に行ってきました。
今日はお客さん(笑)が多かったです。
やはり池田満寿夫の知名度でしょうか、平日にもかかわらず結構な入りでした。
池田満寿夫について
池田満寿夫という名を聞いて知らないという人は40代以上の人だったら少ないのではないでしょうか。
日本の画家・版画家・挿絵画家・彫刻家・陶芸家・作家・映画監督などの従来の芸術の枠にとどまらず多彩に活躍した芸術家でしたが、特に『エーゲ海に捧ぐ』で芥川賞をとったことや、バイオリニストの佐藤陽子とおしどり夫婦であったことなどで記憶されている方も多いと思います。
残念なことに63歳という若さで、不慮の事故で亡くなりました。自宅で外出先から帰宅した奥さんを出迎えた際に、愛犬9匹に飛びつかれて転倒し、搬送先の病院で急逝されたそうです(1997年)。
テレビでのバラエティ番組への出演など、活動の幅が広かったため、芸術家としての評価は定まらない一面があると言われています。
週刊誌的には「19歳で入籍した女性が離婚に応じなかったため、生涯戸籍上の妻はこの女性のみで、その後に同居した作家の富岡多恵子やバイオリニストの佐藤陽子などは内縁の妻だった。」とかなかなかの話題性に富んだ経歴の持ち主です。官能的な作品が多かったことも一因しているでしょう。
ただ晩年は般若心経をテーマにした作品や陶芸に没頭し、陶芸作品は3000点を超えるそうです。版画作品も1000点に及ぶそうですから、その半端ないエネルギーには圧倒されますね。
今回の特別展は、タイトルに池田満寿夫をうたいながら実は池田の作品展ではありません。
池田が所属していた「デモクラート美術家協会」のメンバーたちの作品展でもあるのです。
デモクラート美術家協会
デモクラート美術家協会は1951年に大阪で結成され、後に東京まで広がりました。
当時、日本で活動していた多くの作家たちは、審査制度の公募展を通して作品を発表していましたが、この公募展に反旗をひるがえしたのがデモクラート美術家協会です。
画家であり版画家でもある瑛九(1911年 – 1960年)が中心となり、権威を気にせず、個人の創造性を重視した活動が行われました。
ここに入会したのが若き池田です。池田は長野県の高校を卒業後、東京藝術大学を3回受験するも失敗し、ここで瑛九に銅版画を習い、版画のコレクターでもあった久保貞次郎の後援によって版画に打ち込むようになりました。
そして1957年「第1回東京国際版画ビエンナーレ」に、池田をはじめとするデモクラートの作家たちが次々と入選したのです。池田はこの時、生活費稼ぎの作品に追われており、なんとビエンナーレに出品する作品(3点)は3日で仕上げたそうです。このため自分で持ち込む勇気(自信?)がなく、同居していた詩人の富岡多恵子に持っていくことを頼んだそうで、、、それが入選したわけです。
無欲とまではいいませんが、狙い過ぎないことで池田の本領が発揮されたのかもしれません。
この時の感想に「飛翔」という言葉が使われていました。
「とびたつとき」とはまさにこのことなのですね(私の解釈ですが)。
翌年、瑛九はデモクラートを解散するのですが、作家たちはデモクラートの活動を経て、解散後も個々の作品を世に発表し続けました。
今回の展覧会は展示の3分の2以上はデモクラート作家たちのものです。正確には池田の作品は83点ですが、他の作家たちは185点!
圧倒されました。
デモクラート作家の作品たち
残念ながら撮影は禁止されていたのでフライヤーや絵葉書でのご紹介になります。全部で268作品ありながら、わずか数枚のご紹介ですみません。
靉嘔≪倦怠≫1955年
シュールな絵画ですね~。そんなに大きい作品ではなかったと思います。今回はいわゆる“大作”がないせいか、作品リストにサイズ表記はありません。
会場では気が付きませんでしたがリストでは「油絵・板」となっています。板に描かれていたのですね。じっと見ていると人体が断片的に見えてきます。
利根山光人≪子供のいる風景≫1957、瑛九≪自転車≫1956
1の≪子供のいる風景≫はジョアン・ミロやカンディンスキーを彷彿とさせます。作家にしてみればそういわれると非常に不愉快だろうと思いますが、やはり時代が時代。戦後まだ10年余りですから、ヨーロッパ画壇の空気というかトレンドを吸収してこその作品だと思います。
2の≪自転車≫もシャガール風といったら失礼ですが、幻想的で色の変化も繊細な印象的な作品です。油彩でキャンバスに描かれています。
池田満寿夫≪私の詩人・私の猫≫1965
こちらの作品はドライポイント(版画)ですね。女性のセーター?と猫の縞模様の表現が見ていて楽しいです。じっくり考えて描いたというよりは一気に描いたという感じ。そのスピード感が池田の持ち味かも知れません。
池田満寿夫≪急ぐ人≫1962
こちらの作品も線が踊っています。
ドライポイントという技法は 、金属版に直に印刻するため、ラフな線が表現しやすく、そこに部分的に「色」をあしらうという池田流の装飾が施されます。
この色の効果はたいへん大きいのではないででしょうか。版画は葛飾北斎にしろ安藤広重にしろ、ヨーロッパを驚嘆させた線と面(色)の世界です。
それに通じる価値が池田の作品には備わっていたのではないかと思います。
池田満寿夫≪バラはバラ≫1966
次の作品も線描はドライポイント。バラの花の影はルーレット。そして赤や緑の面はエングレービング(彫刻)のようです。
線描と面のコントラストが、赤と緑と対比効果があいまって、とても華やかな作品に仕上がっています。本の表紙や挿絵など、イラストとしても十分ニーズがありそうですね。
とにかく展示数が多い作品展でしたが、好きな傾向の作品ばかりだったので楽しかったです。
作品展をあとにして
作品を見終わった後はカフェでお茶するも良し、ソファでくつろぐも良し。
館内のあちこちにあるオブジェは、屋外の緑を背景にすると一段と映えます。
屋外は木々の緑に包まれていて、遠くには広島の市街地が見えます。
こちらはムーアの広場。
今日はひろしま観光ループバス(めいぷる~ぷ)で帰ることにしました。
1時間に1本しかありませんが、時間さえ合えば次は広島駅(北口)なので私には便利が良いです。
バス停は美術館西側の階段のふもとにあります。四角い石柱には上から水が流れているのですが、ここを通る人は少ないので、せっかくのオブジェがもったいない感じになっています。
ちょっと日が陰ってきました。
めいぷる~ぷ号は外国人観光客も多いので、車内では観光案内の映像と音声が流れています。私もちょっと観光気分になれるのが嬉しい。
そういえば今日の作品展、前売り券での入場者には絵葉書のプレゼントがあったのですよ。最後にご紹介した池田満寿夫の作品2枚がそれです。
サプライズですね。
今日も次回の前売り券購入しました。