美術鑑賞の新しい切り口。デジタルファインアートで『ゴッホ』をみる

美術館

こんにちは。大人のおしゃれ塾、田中です。

今日はデジタルアートで純粋芸術(ファインアート)を鑑賞する、という体験をしたお話です。
今開催中の『ゴッホ展』ですね。

会場は三次にある奥田玄宗・小由女(さゆめ)美術館。
はじめて行きましたが、豊かな自然が見事に調和した美しい美術館でした。

奥田玄宗・小由女美術館

日本画家の奥田元宋と人形作家の奥田小由女、この二人は夫婦なのですが、二人の作品を故郷である三次市に寄贈して実現したのがこの美術館です。夫婦の名前を冠した美術館は日本でも例がないそうです。

メインエントランスを入るとロビーには光があふれ、水をたたえた池が中から見えます。

天気が良かったので、光と影のコントラストが美しいです。

ロビーでは奥田夫妻の作品解説が行われていました。

二人の作品は常設展示されていますが、そちらはまた日を改めて鑑賞したいと思います。

それでは『ゴッホ展』にまいりましょう!

親愛なる友フィンセント【ゴッホ展】

今回の展覧会には「本物」の絵は一枚もありません。

すべてがオリジナル作品をコンピュータグラフィックス技術を駆使して映像化したものです。

例えばこちら肖像画ギャラリーの作品、女性の目が動きます!

画面(作品)は中から発光しているので明るく、見ていて不思議な感覚でした。

このデジタルアートを制作したのはMDK Digital Picturesというチームで、ハリウッドを中心に「バイオハザード」をはじめ多くの映画や、3DCGなどのデジタルアートを手掛けてきた会社です。 日本の山梨県甲府市とカナダのトロントを拠点にしているそうです。

ゴッホと花の絵のコーナーでは、巨大なスクリーンにゴッホの花の絵が映し出されていました。

壁には作品解説のパネルがかっています。有名な【3本のひまわり】もありました。

アルルの寝室コーナーでは、ゴッホが南仏アルルに滞在していた頃の寝室が再現されていました。

窓から見える風景はゴッホの絵画からとられています。作品が移りゆく風景のように変化していくところが見所です。

ゴッホの絵画世界を3方向から鑑賞できるイマーシブ(没入型の)アート空間もありました。

この種の展示は部屋の暗さが確保できてはじめてが上映効果があがるものですが、残念ながら展示室が狭かったため、作品の明るさに負けて、部屋全体が明るくなってしまい、作品のコントラストが弱まっていました。

暗い中に浮かび上がってこそ作品「カラスの麦畑」ですよね。

現代美術を得意とする美術館であれば、このようなことは起こりにくいかもしれません。

本物であることの価値

絵画であれ彫刻であれ、芸術作品が本物であるかどうか、真贋(しんがん)を見極めることは、所有者はもちろん、それを扱う関係者にとっては必須の要件だと思います。

けれども私たちが本物を目にする機会はそうそうありません。

多くは画集や絵はがき、ポスターなどで作品に接することがほとんどです。それでも私たちは、例えば、ゴッホが好きだったり、フェルメールが好きだったり、ピカソが好きだったりします。

本物でなくても、本物を忠実に再現しようとしたものであれば、印刷による多少の色みの違いは、一般人にはそこまで問題にはならないのではないでしょうか。

そもそも「本物」も自然光のもとで見ることはできません。作品を傷めないよう美術館の照明は薄暗いことが多いですから。

そう考えると、今回のゴッホ展では一挙に860点の作品を見ることができます。

オリジナル(本物)を860点も集め、実際に展示することはまず不可能でしょう。

所有者の許諾を得ることも大変ですが、作品を輸送する費用、それにまつわる高額の保険料、展示にかかわる許諾料、保険料・・・考えただけでも気が遠くなります。

それがデジタルアートなら輸送や保険料が発生しません。

もちろんここまで作品数が多いと「権利クリアに5年の歳月をかけ、世界中から蒐集した」そうで大変だとは思いますが、蒐集できれば、あとは技術陣の腕に任せればよいことになります。

特に展示最後のゴッホ・シアターでは、ゴッホの数奇な生涯を、ナレーション入りで映画のように紹介していました。(ここは撮影・録音禁止です)

ナレーションが少し演出過剰(感情移入しすぎ)なのが気になりましたが、ゴッホの生涯や作品をシャワーを浴びるがごとく身近に感じ取ることができました。

こういったアートの見せ方はアメリカ、フランス、オーストラリアではすでに、芸術表現の一つのジャンルとして確立され、人気を博しているそうですが、芸術との新しい関わり方として面白いと感じました。

ゴッホをテーマにした映画の数々

27歳で絵画を志したオランダの青年、フィンセント・ファン・ゴッホ・・・

37歳で閉じた不遇の生涯、孤独と狂気の中で描いた作品は2000点に及ぶそうです。

そんな数奇な運命に彩られた画家ですから、本や映画に取り上げられることが多いです。

映画【ゴッホ~最後の手紙~】では、実写撮影された映像が、世界中から集まった画家たちの手で、ゴッホタッチの動く油絵として再現されています。

物語はサスペンス仕立てになっていて、見る人をどんどん引き込んでいきます。

他にも【永遠の門~ゴッホの見た未来~】など、ゴッホをテーマにした作品は多いです。

ゴッホが自ら命を絶って130年。

ゴッホを最後まで援助していた弟のテオは、ゴッホの死後、後を追うように半年後に亡くなっています(病気で)。

ゴッホがここまで伝説の人になったのは、テオが画商であったこと、ゴッホをずっと援助し励ましていたこと、テオの死後、テオの妻が二人の書簡(手紙)を本にしたことは要因として大きいと思います。

もちろん、それらがなくてもゴッホはゴッホたる作品を残したかもしれませんが、それは誰にも分かりません。

おわりに

アートの展覧会というのは、それぞれに企画のコンセプトがあって、私はそのコンセプト「切り口」を味わうことが大好きです。

どういう視点で作品を蒐集しどのように見せるか。

今回のデジタルファインアートは、ゴッホの生涯に寄り添い、ゴッホの世界観をより多くの人に分かりやすく、しかも感動的に伝えることに成功していました。

純粋芸術はともすれば敷居が高く感じらますが、こういった先進のデジタル技術を用いることで、アートがより身近になるとしたら、それはまた意義あることではないでしょうか。